
中国が11月の惨憺たるマクロ指標を公表した直後、習近平が中国で成長を誇張する「無謀なプロジェクト」を非難し始めました。
中国経済は11月に幅広く減速し、特に個人消費の著しい弱まりが見られました。これにより、世界第2の経済大国である中国において、家計および企業の需要を安定させる必要性が一段と高まっています。

11月、中国経済の成長ペースは全般的に鈍化し、消費支出が大きく減速、投資および不動産分野も軒並み低迷しました。小売売上高の伸び率はパンデミック発生以来の最低水準を記録、中国のいびつな成長モデルは、世界の他の地域との貿易摩擦を一層深刻化させているのです。
中国政府による「旧品買い替え」補助金は徐々に縮小し、長期化する不動産危機が家計支出を抑え込む中、設備投資も更なるデフレ圧力に直面しています。
更に中国経済は、これまで一貫して輸出に依存して成長を支えてきましたが、1兆ドル(155兆円位)規模の貿易黒字に対して世界の貿易相手国が不満を募らせ、輸入規制の壁を設けようとし始めているので、輸出エンジンも止まりそうです。
11月の各種指標が示す中国経済の悪化
中国国家統計局が月曜日(12月15日)に発表したデータによると、11月の鉱工業生産は前年同月比4.8%増と、2024年8月以来の最低の伸びとなり10月の4.9%から低下。この増加率は、ロイター通信が行った調査による予測値5.0%も下回っています。
鉱工業生産(IP)の伸びは輸出の伸びが著しく改善したにも関わらず低下していますが、自動車産業と公益事業産業の生産の鈍化が、特殊機器産業と医薬品産業の生産の加速を相殺。

消費動向を示す小売売上高の伸びは1.3%と、2022年12月(当時、中国がコロナ規制を解除した時期)以来の最低水準となり、10月の2.9%や事前予測の2.8%を大きく下回りました。11月までの時点で、小売売上高の前年比伸び率は6カ月連続で鈍化しており、これは2020年以来最も長く続く減速局面となっています。
昨年導入された消費財補助金制度が一部の需要を前倒しで喚起した結果、現在は成長ペースの維持が難しくなっています。「旧品買い替え」補助金の効果減退は、11月の支出データの詳細に特に顕著に表れており、家電販売額は前年同月比19%減と、2020年初頭以来最悪の水準となりました。カンフル剤も効かないですね。
固定資産投資も振るわず、今年1~11月は前年同期比2.6%減となり、1~10月の1.7%減から更に落ち込み、統計が残る1998年以来、初めて年間ベースで減少する見通しに。
不動産業も再び悪化をし始め、11月の不動産投資は前年同期比15.9%減と、1~10月の14.7%減から下げ幅が拡大中です。70の大中都市の平均住宅価格は11月に前年同月比2.8%下落し、10月の2.6%下落から下落率が拡大。
こうした弱い指標が中国株式市場を押し下げているほか、国有不動産開発会社・万科が債務不履行の懸念に直面しており、不動産業界を根底から揺さぶっています。
自動車の年間販売台数は8.5%減と、この10カ月で最大の落ち込みとなり、例年、年末の2カ月に販売が伸びる自動車業界の反発への期待が打ち砕かれています。
中国のマネーサプライ(特にM1)の伸びペースは2カ月連続で鈍化。
日本の報道では全く触れませんが、かなり危機的な状況ですよ。
貿易面での逆風が一段と強まる
ブルームバーグのエコノミストは「中国の11月データは、年末に向けて国内需要が一段と弱まった事を示している。輸出は持ち直したものの、生産の伸びは年内最低を記録した。このような広範な悪化は、2024年第4四半期に景気刺激策が講じられる前よりも、現時点の経済が更に弱っている事を意味する。」と指摘しています。
ロイター通信によれば、エコノミストらは中国経済は既に追加の景気刺激策だけで問題を有効に解決できる段階を過ぎているとの見方。
世界銀行と国際通貨基金(IMF)は中国の成長見通しについてより慎重な予測を示しており、IMFは先週、北京当局に対し構造改革を加速させると共に、不動産部門への対応を図るよう促していました。何故なら、中国の家計資産のおよそ70%が不動産と結びついているからです。
IMFは、向こう3年間で不動産危機を解決する為に必要なコストは、中国の国内総生産(GDP)の5%に相当すると見積もっています。
ブルームバーグによると、こうした下方リスクが高まる中、習近平は誇張された成長統計を厳しく批判し、見かけの成果を示す事だけを目的とした「無謀なプロジェクト」の追求を取り締まる事を誓うと発言したようです。
「すべての計画は事実に基づき、誇張のない堅実で真実の成長を目指し、高品質で持続可能な発展を促進しなければならない」と、習近平が先週述べたと共産党機関紙『人民日報』が日曜日に伝えました。
習近平は中央経済工作会議で更に、「現実を顧みずに無謀かつ拙速に行動する者、過度な要求を押し付ける者、慎重な検討なく資源を投入する者は、厳格に責任を追及されなければならないと。
不要に巨大な工業団地、無秩序な地方の展示会やフォーラムの乱立、水増しされた統計、「見せかけの着工式」といったものを不正行為の例として挙げて非難。
中国ではデータへのアクセスが機微な問題とされ、統制されている為、外部の観察者が経済の実態を把握する事は困難ですが、今回の習氏の発言は、地方当局者の評価に使われている既存の指標を見直す意向を示唆しているように見えると話題です。
中国では長い間、地方政府や官僚が「GDP成長率」などの数字を良く見せる事で出世したり評価されたりしてきました。
結果、本当に必要かどうかよく考えずにとにかく大きな開発プロジェクトや工業団地、イベント・展示会などを乱発する傾向がありました。一見すると「すごい開発」「立派な投資」に見えるけれど実際には空っぽの工業団地だったり、利用者が殆どいない施設だったりと、「数字や外見の為だけの無駄プロジェクト」も多かったわけです。
習近平は、そうした「実態を伴わない成長」「水増しされた統計」「やったふりだけの工事着工」などを名指しで批判し、「事実に基づいた、本当に中身のある成長を目指せ」「現実を無視して無謀にプロジェクトを進めたり、過大な要求をしたり、よく考えずに資源をつぎ込んだりする者は厳しく責任を問う」と述べています。つまり、「数字さえ良ければいい」という評価方法を改めて、「質の高い持続可能な成長」を重視するよう、地方政府や官僚に強く釘を刺しているのです。
この流れで今後のGDPが爆下げして発表されるかもしれません。