
英国の大手防衛企業2社の幹部が、中国のEVを利用した中国政府によるスパイ行為の可能性を懸念し、自社社員に携帯電話を中国製EVで充電しないよう指示しました。
英国の大手防衛産業では、国家機密情報が中国政府に盗み取られるリスクを最小限にするため、「用心深く」「万全を期す」対応策が講じられて、生産工場の駐車場を利用しないことや、Bluetoothや充電ケーブルで携帯電話を中華EV車に接続しないことも推奨されています。
このような予防策を講じていると考えられる企業の中には、BAEシステムズやロールス・ロイスも含まれています。
ある防衛企業は「中国車の販売が英国で増えている中、我々は当然ながら慎重になっています。社員には常識的な予防策を認知させています」と述べています。

また、トランプ大統領が中国への関税を課して以来、中国から米国への電気自動車の価格は2倍となり、専門家はこれがより安価な中国製EVが英国市場に流入する契機になり得るとみています。
英国では複数の中国ブランド(BYD、Ora、Geely、XPENGなど)が販売されていますが、中国メーカーはMG、ボルボ、ポールスターなどのブランドも所有しています。
イギリス王立防衛安全保障研究所(RUSI)のサイバー・テクノロジー研究員、ジョセフ・ヤルネツキ氏は「防衛関連企業が諜報活動の標的になることを考えれば、中国の歴史的な諜報活動の証拠を踏まえ、彼らがこうした措置を取るのは当然だ」と指摘します。
最近英国市場でオール電化SUV「G6」を発表したXPENGの広報担当者は、「当社の車が運転者をスパイしているという事実はない」といつものように否定していますが、信用など出来る筈もありません。
なぜなら中国の国家情報法のもと、中国企業が情報機関の要請に協力する義務が定められているからです。
中華EVからのハッキング被害警戒は去年から繰り返し警告されてきました。
英国の立国際問題研究所 (チャタム・ハウス) の姉妹機関CFR(外交問題評議会)による中国EVの危険性についての報告。

ヨーロッパはバイデン政権の中国製スマートカー制限を見習うべきで、ヨーロッパが計画している中国製電気自動車(EV)に対する関税は、より大きな脅威を見落としている。
北京はスマートカーをサイバー戦争の武器に変える恐れがあるのだ。
2024年10月22日
欧州委員会は中国の電気自動車(EV)に対する関税引き上げ計画を進めている。
これは、欧州自動車メーカーの存続を脅かす中国からの補助金付き車両の流入を食い止めるための措置だ。
EUが提案する最大45%の関税は、米国が課した100%の関税よりもはるかに低い。中国のEVメーカーは高い利益率を維持しているため、その分を吸収し、価格を調整するだけだろう。
中国製スマートカーは、単なる半端な貿易措置では対処しきれない、EUの安全保障に対する脅威となっている。
先月、米国商務省は、インターネット接続機能のある車両(現代のほぼすべての車が該当)に使われる中国およびロシア製部品の輸入を制限する画期的な規則を提案した。EUも同様の措置を講じるべきだ。
米国の規則は、警戒主義や保護主義によるものではない。
主に中国製のスマートカーが米国市場に大量流入することによって生じる、重要インフラや機密データのサイバーセキュリティおよびサプライチェーン上のリスクから守る「ファイアウォール」を築くのが目的だ。
この規則は、中国が2023年に世界最大の自動車生産国となったことを踏まえれば、まさに今、必要なタイミングで登場したものだ。
米国の新規則は、現代および将来の車両の2つのシステムを標的にしている。
データを無線送信する「車両接続システム(VCS)」と、自動運転車両の中核となる「自動運転システム(ADS)」である。現代の車両はAI対応のモバイルデータセンターへと進化し、数千ものセンサー(カメラ、マイク、ナビゲーションシステムなど)を搭載し、インターネットに接続している。しかし、こうした利便性は新たな危険も生む。
北京が車両を遠隔操作してデータの不正持ち出しや運行妨害を行ったり、5G、Wi-Fi、衛星、Bluetooth経由で車両がつながる重要インフラ自体を妨害したりする恐れがあるのだ。
こうした脅威は、単なる仮定の話ではない。
2022年、ロシア軍兵士がウクライナの農機具販売店からジョン・ディア製トラクターを盗んだが、同社は遠隔操作でそれらを発見することができた。
戦時における中国によるデジタル破壊能力は、これなど子供の遊びに見えるほど絶大なものになり得る。
米国をはじめとする連携各国の政府機関は、中国政府系ハッカーが米国の重要インフラに侵入し、IT・エネルギー・水道・輸送システムなどに継続的にアクセス可能な状態にあると、たびたび警告してきた。有事の際にはこれらのシステムを混乱させる準備ができているのだ。
北京と関連するハッカーは、ヨーロッパや世界中のインターネット接続機器も同様に侵害している。
中国設計・製造によるインターネット接続車両が何百万台も米欧を走るようになるのは、政策担当者の重大な怠慢である。
米国内でも業界はこの課題に徐々に気づき始めているが、政府の後押しが必要だ。
商務省が車両に搭載される中国・ロシア製部品に関する規則案の策定に際して、自動車メーカーにヒアリングしたところ、多くの企業がサプライチェーンおよびサイバーセキュリティ強化の必要性を認識し、今後の措置を歓迎していた。
中国でビジネス展開する企業が新米国政策への公然とした支持を控えるのは、北京からの報復を恐れるためであろう。
ただし、この規則は対決的なものではない。外国メーカーは中国国内では厳格なデータ現地化・サイバーセキュリティ規制、恣意的な監査、業務システムへの物理的介入といった、北京の産業制覇戦略に基づく制度に従わされている。
中国自動車メーカーは他の産業同様、巨額の国家支援や補助金、地元調達義務、強制的な技術移転、知的財産権の侵害など、かつてない優遇と経済的な略奪行為により恩恵を享受してきた。
過去、西側の政策担当者はこうした行動への対応が遅すぎた。
鉄鋼、太陽電池、造船、IoT機器など、あらゆる産業分野で中国の不公正競争による制圧を許し、それによる将来の被害を防ぐ決断を下せなかった。結果は、膠着した交渉による合意と、それを北京が守らなかった事例の繰り返しである。
米国は、すでに自動車以外にも、ドローン、ロボティクス、バッテリー、衛星地上局、クラウドコンピューティングなど、様々なインターネット接続技術に対する規制導入を検討している。更にこうした取り組みを加速すべきだ。
今ルールを作っておくことは、「ファーウェイ問題」の再来を自動車分野で防ぐのに等しい。
中国通信大手であるファーウェイ製品の排除は、既に市場に浸透した後に行ったために、多額の費用をかけて「リップ&リプレース(撤去と交換)」という対応が必要になった。
中国製コネクテッドカーが大きな市場シェアを握る前に輸入制限を打ち出せば、米国の産業や消費者への影響を最小限に抑えられる。
商務省は十分な移行期間を設けており、現段階の案ではソフトウェア分野は2027年、ハードウェア分野は2030年に規則が発効するので、業界は必要な調整を行う十分な時間がある。
この課題は、米国とヨーロッパが共に直面すべきものだ。
EUは、日本、韓国といった他の民主的な自動車製造国と連携し、必要があれば新たな法的権限も整えつつ、同様の規則を作るべきだ。
早急に行動すべきであり、中国製EVの市場占有率がさらに高まった後では、規制をかける負担が大きくなる。米国とEUが連携して行動することで、独裁的支配に縛られない、より安全で強靭な重要インフラおよび技術の確保が可能となるだろう。