
トランプ大統領による対インド追加関税25%が、8月27日午前0時に発効し、米国に輸入される多くの品目の関税率は合計で50%に達しました。
大統領は4月の「グローバル関税」発表で、インド政府に貿易障壁の引き下げを促す狙いから、インド製品に26%の関税を導入。その後、数カ月を経て税率は25%と僅かに引き下げられました。
更にトランプ氏は8月6日の大統領令で、インドが「直接的または間接的にロシア連邦の石油を輸入している」として、追加の25%関税を実施。
ロシアが2022年にウクライナへ侵攻して以来、インドはロシアにとって最も重要な取引相手国の一つとなっており、年間の二国間貿易額は約690億ドルに達しています。
ここ数年、両国を結びつけている主な品目はエネルギーです。
昨年、インドの原油輸入額は520億ドルを超え、ロシアの石油輸出の約3分の1をインドが占めたと推計されています。これは制裁によるディスカウントが背景にあります。
2024年12月、主要7カ国(G7)はロシア産ウラル原油に対し、1バレル60ドルの価格上限を導入し、ロシアの石油収入を抑制しようとしました。その後、世界的な原油価格が下落し、現在は米国産WTI原油が1バレル約64ドルで取引されている為、価格差は小さくなっています。
エネルギー経済学者のアナス・アルハッジ氏は次のように述べています。「インドは米国、南米、アフリカからの輸送コストの高い原油を、より安価なロシア産原油に切り替えた。コストの高い原油約932千バレル/日(kb/d)やクウェート・オマーンの製油所に振り向けられた原油が、ロシアからの輸入で置き換えられた。ロシア産原油への制裁は貿易の方向性を形作り、インドの購買行動に影響を与えた。」
米国当局は、インドによる取引がロシアのウクライナでの戦争努力に資金を供給していると主張しています。
トランプ氏は8月4日のTruth Socialへの投稿で、インドが割安なロシア産原油を利用して「公開市場で大きな利益を上げている」と述べました。
「彼らは、ロシアの戦争機械によってウクライナでどれだけ多くの人々が殺されているかなど気にしていない」と同氏は述べました。
これに対しインド政府は、同国の約15億人に手頃なエネルギーを提供する事を目的として購入していると主張し、批判を退けました。
「このような背景を踏まえると、インドを標的とするのは不当かつ不合理です」とインド外務省の報道官は反発。
ホワイトハウスのピーター・ナバロ大統領上級顧問(通商・製造業担当)も大統領の見解に同調し、先週、インドはウクライナ戦争で「暴利を得ている」と記者団に語りました。
「インドは、自らの血の通った役割を認識したくないようだ」とナバロ氏は8月21日に述べました。
同氏はまた、インドの現行の通商政策は米国に不利益を与えているとも述べています。
ナバロは次の様にインドを糾弾しています。
「我々は対インドで巨額の貿易赤字を抱えている。これは米国の労働者と企業を傷つけている」
「そして彼らは、我々に物を売って得た資金でロシアの石油を購入し、それが製油所で処理され、彼らはそこで多額の利益を上げる。しかしロシアはその資金でより多くの武器を製造し、ウクライナ人を殺害する。結果として米国の納税者は、ウクライナへの軍事支援をより多く負担しなければならない。」
米通商代表部(USTR)によれば、2024年の米国の対インド財貨貿易赤字は約460億ドルで、前年から5.9%増加しました。
今後の貿易動向
新たな関税は、年間2,000億ドル超の米印貿易に混乱を齎すと見込まれています。最新データでは、インドからの輸入に小幅な減少が見られました。
商務省経済分析局(BEA)によれば、6月の輸入は前月比で3%減少した一方、前年同月比では29%増加しました。
一方、デスカーテス・システムズ・グループの新データでは、米国のコンテナ輸入が7月に前月比18%以上増加。特に、同社の8月のグローバル・シッピング・レポートは、インドからの出荷が約14%急増したことを示し、ホワイトハウスの関税に備える企業の動きを浮き彫りにしています。
同社の業界戦略ディレクター、ジャクソン・ウッド氏は声明で次のように述べました。
「米国は、8月1日に60超の国を対象とした相互関税の実施、8月7日に開始した対インド特別関税、銅への一律関税、そして10月15日に期限を迎える米中関税休戦の行方といった状況を受け、サプライチェーンの見直しを迫られており、貿易の不確実性は引き続き高い。」
因みに今週予定されていた米国の通商代表団のニューデリー訪問も中止され、貿易交渉の行方は不透明です。
ニューデリーで最近開かれたエコノミック・タイムズのフォーラムで、インドのスブラマニヤム・ジャイシャンカル外相は、協議は継続中だが、特に農家や中小企業を巡る政策については守るべき方針があると述べました。
「我々には維持し守るべきレッドラインがある」と同氏。「『国益』に則って意思決定を行う権利が我々にはある。」
INGのエコノミストは、通商摩擦が起きる可能性の中で、インドの成長見通しは不確実だと警鐘を鳴らしています。
市場コンセンサスでは、インド経済は第2四半期に6.6%成長し、2025年第1四半期の7.4%から減速したと見込まれています。
「高頻度指標は、個人消費と投資の双方で減速を示している。更に予想以上の関税や、米国との通商政策を巡る不確実性の高まりが、2025年の成長見通しに対する下方リスクとして台頭している」とINGはノートで述べました。
政策当局者は、米国との現下の通商状況を踏まえ、物品・サービス税(GST)の見直しなど、国内改革を進める指標として活用しています。政府はまた、対中関係の強化を模索し、地政学的なリスク分散を図っている可能性があります。
モディ首相は今週後半、上海協力機構(SCO)の会合に合わせ、中国の習近平国家主席と会談する予定で、モディ氏が中国を訪れるのは7年ぶりとなります。
キャピタル・エコノミクスのアシスタント・エコノミスト、ジョー・メイハー氏によれば、50%の関税は「インドの国内総生産(GDP)成長に実質的な影響を与えるほど大きい」「この措置が継続すれば、対米輸出の減少により、今年と来年のGDP成長率をそれぞれ0.8ポイント押し下げる可能性がある」との事。