雇用統計の米国株への影響

今回の雇用統計について日本メディアでまったく語られていない事:不法移民労働者の前例のない一掃

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7月の雇用統計は予想されていた10万4千人を大きく下回り、僅か7万3千人と酷い結果となりました。

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これを受けて、金曜日のセッションはリスクオフとなりました。

関税により米国の平均関税率は13.3%から15.2%に上昇し、トランプ政権発足前の2.3%からは大幅に増加した事も影響しています。

非農業部門雇用者数レポートで注目すべきは過去2ヶ月の合計-258,000人の下方修正で、3ヶ月平均は150,000人から僅か35,000人になりました。

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常勤雇用者数は44万人減少し1億3483万7千人となった一方、非常勤雇用者数は23万7千人増加し2843万7千人となりました。

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これにより、トレーダーはFRBの利下げ期待を高め、9月の利下げ確率はデータ発表前の50%未満から90%に上昇しています。

※一部はトランプが『利下げをさせる為に、労働省に敢えて悪い数字を出させたのではないか?』と推測していました。

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米国の雇用者数が大規模に修正されたのは去年のバイデン政権時も起こりました。

2024年の大統領選挙前に81万8,000人も下方修正され、米国の歴史上2番目に大きな修正となる衝撃的な発表がありました。

こちらが去年のこの件についてのAPの報道です。

去年と違うのは、失業率は総合的には変わりませんでしたが、黒人の失業率が2021年10月以来の高水準に急上昇している事です。

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この結果を受けて、株価は下落し、債券と金は買われました。

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S&P500先物4時間足の様子⇩

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昨夜は雇用統計のニュースで急落してますが、テクニカル的な問題もあります。

4月からの上昇を支えたサポートラインを先月割り込んでしまったのですが、それがレジスタンスとなり上昇を阻んでいました。(赤い矢印を付けた箇所が効いている箇所)

それでも以前のチャネルの下側にサポートされて、じわじわとレンジで推移していたのですが、昨日のニュースをきっかけにそのラインも下抜けてしまいました。

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この以前のチャネルの下側は前回の暴落の引き金になったライン(赤丸の場所)ですので、ちょっと注意が必要です。

雇用統計について詳しく見ていきます。

7月の非農業部門雇用者数は、市場予想の110,000人増に対し、73,000人増と大幅に下回りました。一応、予想レンジ(0~176,000人)内ではあるものの、予想の下限に偏っており、特に過去数ヶ月の大幅な下方修正と合わせて考えると、労働市場の状況は最近の報告よりも悲観的なものとなっています。

6月の雇用者数は147,000人増から14,000人増に下方修正され、5月は144,000人増から19,000人増に下方修正されました。これらの修正を合わせると、-258,000人となり、今サイクルで最大の2ヶ月連続の下方修正となりました。

これにより、3ヶ月平均はわずか35,000人となり(前回は150,000人)、FRBバーキン総裁が6月下旬に示唆した労働市場の損益分岐点となる80,000~100,000人を大きく下回っています。

この累積的な影響により、労働市場は当初考えられていたよりも著しく弱含みとなっています。

失業率は4.2%と、市場予想通りに4.1%から上昇しましたが、それでもFRBが2025年の見通しとして示している中央値の4.5%を下回っています。

これに伴い、労働参加率は62.3%から62.2%に低下しました。

一方、平均時給は市場予想通りに前月比0.3%上昇し、前年比では予想の3.8%を上回る3.9%上昇しましたが、労働時間は34.2時間から34.3時間に増加しました。

民間非農業部門における全従業員の平均時間当たり給与は、7月に12セント(0.3%)増加し、36.44ドルとなり、過去12か月間で、平均時間当たり給与は3.9%増加しています。7月における民間部門の生産労働者および非管理職従業員の平均時間当たりの給与は、8セント(0.3%)増加し、31.34ドルとなりました。

全従業員の平均労働時間は、7月に0.1時間増加して34.3時間となりました。製造業分野では平均労働時間は40.1時間で変化はなく、残業時間は2.8時間へとやや減少しました。

民間非農業部門の生産労働者および非管理職従業員の平均労働時間も、7月に0.1時間増加して33.7時間となりました。

報告書のその他の詳細は以下の通りです。

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経済的理由によりパートタイムで就業している人数は470万人で、7月もほとんど変化がありませんでした。

これらの人々は本来フルタイムで働く事を望んでいましたが、労働時間が削減されたか、フルタイムの仕事が見つからなかった為、パートタイムでの就業となりました。

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7月に就業を希望しているが労働力人口に含まれない人の数は620万人で、1年前と比べて568,000人増加しています。

これらの人々は、調査前4週間の間に積極的に仕事探しをしていなかった、または仕事に就く事ができなかった為、失業者にはカウントされませんでした。
労働力人口外で仕事を希望していた人のうち、「仕事を求めて連絡している」とされる人の数は170万人で、7月もあまり変化しませんでした。

これらの人々は、労働に就くことを希望し利用可能であり、過去12か月の間に何らかの求職活動は行いましたが、直近4週間の間には積極的な求職活動をしていませんでした。

「気落ちしている労働者」(働き口がないと考えて求職を止めた人)は、7月に212,000人減少し425,000人となり、前月の増加分がほぼ相殺されました。気落ちしている労働者は、周辺的労働力人口の一部です。

雇用状況の内訳についてですが、BLS(米労働省労働統計局)は、医療・福祉分野での雇用が引き続き増加している事、連邦政府での雇用が減少している事を報告しています。

連邦政府職員が 12,000 人減少した事で、これは 6 回連続の減少となっています。これはトランプのDOGEによるものですね。

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医療分野では7月に55,000人の雇用増となり、過去12か月間の月平均増加(42,000人)を上回りました。

このうち、外来医療サービスで34,000人、病院で16,000人の雇用増加が見られました。

福祉分野の雇用も7月に18,000人増加しましたが、これは個人および家庭向けサービスでの雇用増(21,000人)が続いていることを反映しています。
連邦政府での雇用は7月に12,000人減少し、1月のピーク時から84,000人の減少となっています。
その他の主要産業、すなわち鉱業、採石、石油・ガス採取、建設業、製造業、卸売・小売業、運輸・倉庫業、情報産業、金融業、専門職・ビジネスサービス、レジャー・ホスピタリティ、その他のサービスでは、7月の雇用に大きな変化は見られませんでした。(レアアースプロジェクトが動き始めますので、これが今後反映される可能性あり)

全体として、このレポートは利下げへの転換点となる可能性があります。

FRBが様子見モードを維持していたここ数ヶ月の強い雇用統計を経てのこの結果は、より明確に利下げに向かう議論に移行する材料になりそうです。

市場の価格設定はこれをすぐに反映し、9月の利下げ確率は発表後に90%を超え、年末までに59bpの利下げが織り込まれています。

ただパウエルFRB議長は水曜日に、労働市場は完全雇用に近い状態にあり、インフレは目標から遠いと強調していましたので、まだ利下げを渋る可能性もあります。

雇用統計がパウエルの考えを変えたかどうか、そして労働市場の弱さがFRBでより高い優先順位を占めるようになるかどうかを注視していきましょう。

労働市場の減速とインフレの上昇は、FRBを難しい立場に置きます。

通常、労働市場に予期せぬ悪化があった場合、利下げを行うことを示唆しています。

今回の雇用統計について日本メディアでまったく語られていない事:不法移民労働者の前例のない一掃

今回の雇用統計で全く触れられなかった、もしかすると最も重要な側面についてですが、それは、「不法就労者」の雇用からの排除が進行しているという点です。

下のグラフに示されている通り、7月には外国生まれの労働者数が46万7千人減少しました。しかも、これは7月だけのことではありません。ご覧のとおり、外国生まれの労働者(この多くは主に不法移民とされています)は過去4か月連続で減少しています。

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トランプ大統領がすべての不法就労者(不法移民)に対して前例のない取り締まりを強化した結果、7月にアメリカ生まれの労働者が38万3千人増加しました。

これは印象的な数ですが、6月の驚異的な83万人増に比べると半分以下です。4月には104万人という大幅な増加もありました。

この事については、定期的にこの情報を追っている方にはよく知られているかもしれませんが、多くの方にとっては意外なことかもしれません。

2019年以降の5年間、アメリカではアメリカ生まれの労働者がごく僅かしか増えておらず、その間の労働力人口の増加はすべて主に不法移民などによる外国生まれの労働者によるものでした。

しかし、トランプ大統領の就任以降、過去6ヶ月間でついに状況が変わりました。

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トランプ政権発足以来、外国生まれの労働者は6か月のうち5か月間減少しているのに対し、米国生まれの労働者は6か月のうち5か月間増加しています。

上のチャートの赤い線が外国からの労働者で、緑が米国生まれの労働者です。

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数百万人規模の最低賃金で働く不法就労者が、職に応募しないだけでなく、実際に職を失いつつあります。

その結果、平均賃金が上昇しています(低賃金労働者が労働市場に参入せず、より高い賃金を得ている自国民の労働者に置き換わっている為です)。

実際、今回の雇用統計は非常に弱い内容でしたが、一方で平均時給は前月から上昇し、市場予想を上回る結果となりました。このことからも、上記の傾向が見て取れます。

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しかし、バイデン政権下で見られた外国生まれの不法移民の大量流入と比べて、米国生まれの労働者の供給は限られているため、米国の労働市場にはボトルネックが生じています。

FRBの反応

  • ウォーラー総裁(投票権あり)は、水曜日のFOMCでの異議(政策金利を据え置く代わりに、25bpの利下げに投票)を説明しました。         
  • 総裁は7月17日のスピーチ以来、見解は変わっていないと述べ、関税は価格水準の一時的な上昇であり、インフレ期待が固定されている限り、一時的な上昇以上のインフレを引き起こすことはなく、標準的な中央銀行の慣行は、そのような価格水準効果を「見過ごす」ことであると指摘しました。
  • またウォーラー総裁は、労働市場は表面的には良好に見えるが、予想されるデータ修正を考慮すると、民間部門の雇用増加は停滞速度に近く、他のデータは労働市場への下方リスクが増加していることを示唆していると述べました。
    基礎的なインフレが目標に近く、インフレの上方リスクが限られているため、政策金利を引き下げる前に労働市場が悪化するまで待つべきではありません。ウォーラー総裁はさらに、FRBは今すぐ利下げを行い、データがどのように進化するかを見ることができると付け加え、政策金利を現在の水準に維持し、労働市場の突然の低下を待つ理由はないと考えています。
  • ボウマン総裁(投票権あり)は、今週のFOMCで成長が鈍化するとともに労働市場の活力が低下していることを考慮すると、適度に制限的な政策スタンスを徐々に中立的な設定に移行し始めることが適切であると述べました。需要状況が改善しなければ、企業は労働者を解雇し始める以外の選択肢はほとんどないかもしれないと認識しています。
    インフレを抑えることについて、ボウマン総裁はトランプ関税がインフレに持続的なショックをもたらすことはないと考えており、おそらく一度限りの影響を与えるにとどまるだろうと見ています。
  • ハミック総裁(2026年投票権あり)は雇用統計は失望的だと述べましたが、労働市場は依然として健全で、概ね均衡を保っていると主張しました。また、金利を据え置くというFOMCの最新の決定に対する自信を強調しました。インフレについては「インフレの痛みは激しく、経済的決定に影響を与え続けている」と述べました。ハミック総裁はインフレ率が上昇すると予想しており、関税が価格に転嫁されると予想しています。
  • ボスティック総裁(2027年投票権あり)は、インフレに対するリスクは雇用に対するリスクよりもはるかに大きく、今年中に1回の利下げを予想しているが、今は利下げをするには非常に難しい環境だと指摘しました。