- フランスの政治リスクが再燃しています。バイルー首相が9月8日に信任投票を実施すると発表し、政権崩壊の可能性が意識されています。
- 主要な野党はすでに反対票を投じる意向を示しており、もし政府が9月8日に倒れた場合、マクロン大統領は新たな首相を任命するか、もしくは国民議会の再解散という選択肢を取る可能性があります。
フランソワ・バイルー首相が実施を決めた信任投票は、首相の脆弱な少数与党政権を来月崩壊させ、エマニュエル・マクロン大統領がフランスを運営する上で直面している危機を増幅させる可能性が高いという初期の兆候が見られます。
バイルー首相はフランスの巨額な財政赤字削減の必要性を巡り、事実上、反対勢力に9月8日に自分を失脚させるよう挑発しましたが、殆どの勢力は、首相のハッタリを見破ろうとしている様子。
バイルー首相を辞めさせようと試みてきた極左の「不服従のフランス」は、直ちに政府を打倒する行動に出ると発表しました。
長年の中道派であるバイルー首相に見切りをつけた中道左派の社会党も同様です。バイルー首相を罷免する脅しを予算交渉が始まるまで温存しているように見えたマリーヌ・ルペン率いる国民連合さえも、今や首相に刃を突き刺す構えです。
バイルー首相陣営は、国民連合の決断に意表を突かれた感じで、匿名を条件に語った首相に近い関係者は、政治ニュースサイト「POLITICO」に対し、ルペン氏がフランスの財政収支を均衡させるという「汚い仕事は我々にやらせたがっていた」と考えていたと述べました。
バイルー首相は、昨年後半に就任して以来、国民連合または社会党の棄権のおかげで、いくつかの不信任案を乗り切ってきました。
どちらの側も首相に救いの手を差し伸べない今、バイルー首相が対抗勢力からあり得ない方向転換を引き出さない限り、首相の延命の可能性はほぼ消滅しました。
バイルー政権が倒れた場合、次の手を打つのはマクロン大統領です。
マクロン大統領の選択肢
・新たな首相を任命する
昨年の夏の議会総選挙で、左派連合、中道派と保守派の都合による連立、国民連合というほぼ同規模の3つの勢力からなるハング・パーラメント(宙ぶらりん議会)が出現して以来、国民議会で共通の基盤を見つける事は困難であると証明されています。
バイルー首相が失脚した場合、物議を醸す歳出計画を強行しようとして、総選挙以来2人目の首相が不信任決議によって失脚する事になります。彼の前任者であるミシェル・バルニエ首相は、任命から僅か3ヶ月後に不信任決議によって失脚しました
格付け:当面は様子見
- フランスの格付け見直しは夏以降に予定されています。
- ただし、最初にフランスからダブルA格を剥奪する事の象徴的な重みを踏まえると、格付け機関は当面「様子見」のスタンスを取る可能性が高いと見ています。
フランスSSA(公的機関債)の価格動向
- これまでのところ、フランスSSAの価格変動は限定的です。年末までの資金調達ニーズが限られている事が支えとなっている可能性があります。
- フランスを巡るリスクオフ局面では、OAT(フランス国債)に対するスプレッドのさらなる圧縮が起こり得ます。
- また、リスクウェイトの相違(0%と20%)に関する市場の意識が再び高まり、銘柄間の選別が強まる可能性があります。
政治スケジュール:信任投票の実施
- 8月25日の記者会見で、バイルー首相は市場の意表を突く形で9月8日に信任投票を実施する意向を発表しました。
- 首相は、9月8日に臨時国会を招集し、一般方針演説を行ったうえで信任を問う予定です。
政治情勢と信任投票
- 首相の施政方針演説と信任投票: 予算審議が10月初旬に予定される中、政府の財政赤字削減方針に対する議会の支持度を明確にする為、首相は施政方針演説を行い、その後に信任投票が実施されます。
- 議会内の勢力状況: 2024年7月にマクロン大統領が総選挙を実施して以降、フランス議会ではいずれの政党も単独過半数を確保していません。前政権のバルニエ内閣は、2024年12月に僅か数カ月で崩壊しています。
- バイルー首相の課題: 続投の為には、バイルー首相は国民議会で多数の支持を確保する必要があります。政府に対する信任に反対票が、賛成票を上回った場合、バイルー内閣は総辞職に追い込まれます。
主要政党の動向とシナリオ
- 左派諸党の対応: バークレイズ経済調査「Mounting risks」によれば、以下の政党が政府不信任に投票する意向を表明しています。
- 極左の「不屈のフランス(LFI)」:71議席
- 「欧州・エコロジー=緑の党」:38議席
- 共産党:17議席
- 国民連合の対応: マリーヌ・ルペン氏は、国民連合(同盟勢力込みで138議席)が不信任に投票する方針を示し、国民議会の解散と総選挙の実施を改めて主張しています。
- 政権崩壊の可能性: もし国民連合とニューポピュラーフロント(左派連合)構成政党の全てが不信任に投票すれば、合計で約330議席となり、バイルー内閣を退陣に追い込むのに十分な勢力となります。
制度面の留意点
- 高まる不確実性とその含意: 明確な過半数勢力が存在しない為、市場のボラティリティは高止まりすると見込まれます。
- 首相交代の選択肢: バイルー首相が信任を失い辞任しても、マクロン大統領が直ちに解散・総選挙に踏み切る必要はありません。代わりに新たな首相を任命し、新内閣が新たな予算案の策定に当たる事が可能です。
- 今後の格付け審査スケジュール
- フィッチ(現行:AA-/ネガティブ見通し):9月12日
- ムーディーズ(Aa3/見通し安定的):10月24日
- S&P(AA-/ネガティブ見通し):11月28日
- リスク評価(バークレイズ「EGBs: Sovereign rating outlook into year」より)
- フィッチとS&Pのネガティブ見通しは、フランス格下げのリスクを示唆しますが、政治動向次第で結果が左右される可能性があります。
- 各社は「二重A」を最初に剥奪する象徴的判断を避け、様子見姿勢を取る可能性があります。一般に、ネガティブ見通し付与から格下げまで2年程度(あるいはそれ以上)かかる場合もあります。
- ムーディーズは2024年12月の格下げ後も見通しは安定的ですが、見通し変更は五分五分との見方です。