
アリババのデータセンター向け、およびIoT向けのチップ開発を行う子会社の平頭哥半導体がAI(人工知能)推論に特化した新型AIチップを自社開発している事が明らかになりました。
Wall Street Journal、Reuters、The Decoder、Investopediaなどが、Alibabaが新しいAIチップを開発したと報じ、マーケットが反応しています。
このチップは、従来のチップよりも汎用性が高く、より広範なAI推論タスクに対応するように設計されており、Nvidia製品の代替として中国のAI開発を支援する役割が期待されています。
ただし、このチップは現在テスト段階にあります。
- 背景: 米国の対中半導体輸出規制で、中国企業はNVIDIAの最先端GPUを入手し難くなってきていますので、アリババが独自開発に向けた動きを発表してきました。
- Alibabaの動き: 自社でAI推論向けチップを開発。訓練は当面NVIDIAに依存、推論は自社チップというハイブリッド戦略を取る様です。
- どんな技術か?:以下に纏めます
推推論特化でクラウドの大量ワークロードを低コスト・低遅延で処理。➡このチップはAI(特に推論:AIモデルが実際にデータを処理する工程)用途に特化し、大量の仕事(=ワークロード)を「安く・速く」クラウド上で捌ける設計になっています。
旧「Hanguang 800」より汎用化し、LLMなど生成AIも視野に。➡前世代(Hanguang 800)は用途が限定的でしたが、今回の新型は大規模言語モデル(LLM、生成AI)など幅広い用途にも使えるよう「より汎用的」になったと。
ソフトはCUDA完全互換ではなく、PyTorch/TensorFlowレベルで互換性確保を狙い、移行コストを最小化。➡CUDA(NVIDIAの開発環境)と完全に同じではないが、多くのAI技術者が使うPyTorchやTensorFlowと互換性を持たせる事で、他のAIチップからも比較的スムーズに移行できる設計にしている。=プログラムを大きく書き換えなくても使いやすいという事。
これがアリババ株価に齎す影響
【好影響が見込める理由】
・より多くの分野(特に生成AI)で使えるチップである事。
生成AIやLLMは世界的な成長分野。そこへの対応が可能になれば市場が広がる。
・低コスト・低遅延=コスパが良い製品である事。
既存のGPUより「安く・速い」なら、
AIサービス企業が乗り換える可能性が高まり、出荷台数や売上増加に繋がる。
・移行しやすさ=新規顧客の獲得が容易である事。
ソフトの互換性をある程度保つ事で、「試してみたい」という企業が増え易い。
導入障壁が下がる=市場が拡大しやすい。
課題(技術の壁)
- 訓練分野ではNVIDIA+CUDAエコシステムが依然優位。➡現在のAI系ソフトウェア開発や運用で、NVIDIAのGPUとCUDAエコシステムが圧倒的に標準的な選択肢になっているという状況。PyTorch/TensorFlowなどの主要フレームワークがNVIDIAのGPU最適化を前提に設計・最適化されているケースが多い。競合他社の新製品が出ても、開発者の慣れ・資産(ライブラリ・ツール・ノウハウ)がNVIDIA寄りで大きく残る、という意味です。
- 先端製造ノードの遅れとHBMの調達制約が性能ボトルネック。➡最新チップの性能を決定づける要素として、半導体製造ノードの進展(微細化の遅れ)とメモリ(HBM=High Bandwidth Memory)の確保が挙げられています。製造工程の遅れやHBMの供給制約により、アリババのチップは理論上の性能を実装できず、全体の性能が抑制されるリスクが生じている、という指摘があります。
- アリババが新しいAIチップを開発したとしても、NVIDIAが市場を支配している事実は変わらない。➡中国のAI企業は、依然としてNVIDIAの技術に大きく依存しているし、技術的・エコシステム的な優位性(CUDA・ソフトウェア資産・デベロッパーコミュニティ)が依然として大きい、と言う事です。
アリババ関連報道の要点(直近四半期・AI・チップ動向)

- 売上は市場予想未達、利益減少:4–6月期(同社Q2/一部媒体ではJune quarter)で売上成長は鈍化、Non-GAAP純利益は前年比▲18%の約335億元(華爾街見聞)。利益減の主因は即時配送・クイックコマース(「淘宝即时电商」「淘宝闪购」等)への積極投資、ユーザー獲得・補助の増加。
- クラウドはAIで加速:アリババクラウドの売上成長が加速(約+26%)。生成AI需要や企業向けAI採用が牽引。
- 新AIチップを開発:NVIDIA代替を狙う自社AI推論チップを開発・テスト中と報道。中国国内のAI計算資源不足を補完する狙い。最新チップは、NVIDIAソフトウェア・エコシステムと高い互換性を持つため、エンジニアにとって既存システムからの移行コストが低いという特長があります。
世界的なAIサーバーや推論タスクの幅広いニーズに応える設計と評されています。 - アリババ株の急騰も報じられていますが、NVIDIAの時価総額も急増し、両市場の“競い合い”の側面が現れています。
一方で、中国当局の規制や説明要求、Ant Group(アントグループ)上場問題など、阿里巴巴には注意すべき経営リスクが残っています。 - コマース事業の戦略投資:淘宝(タオバオ)即時・閃購などクイックコマース強化でMAU拡大、ただし投資先行で利益圧迫。
- 2024年~2025年初頭も、阿里巴巴をはじめ中国の大手IT企業がNVIDIA製AIチップを大量購入していることが報じられています。
同時に中国政府は一部企業に対して、何故NVIDIAチップを購入したのか説明を求めるなど、国内半導体産業の育成と輸入依存低減を図っています。 - 新AIチップは注目されますが、NVIDIAの高性能・大量供給体制に追いつくには時間がかかる可能性があり、当面は併用・依存状態が続くと思われます。

アリババ値動き
週足

アリババは2021年に長期サポートラインを下抜けした後、2024年までさえない展開が続いていました。現在は2019年の底値に出来た水平線(129.9ドル)を上抜けて上昇しています。
日足

上昇を阻むラインとしては、今年3月につけた高値148.7ドルに出来た水平線があります。
4時間足

もっと細かく見ると、今年5月15日につけた高値の135ドルで現在は急騰がストップしているのが分かります。
15分足

仮に新規ポジションをとるなら、ここを上抜けきってからが安心です。