
ホルムズ海峡の危機:データで簡単まとめ。
何が起きているか?
アメリカとイスラエルがイランと戦争状態に入り(2週目)、ペルシャ湾のホルムズ海峡がほぼ封鎖状態になっています。
なぜ深刻か?
ホルムズ海峡は世界の石油供給の約20%が通る「咽喉部」。そこが止まると当然世界経済に直撃します。
- 被害量:1日1600万バレルの石油フローが止まっている(ロシア制裁の16倍規模)
- 3月1日以降、海峡を通過したタンカーは僅か22隻(多くはGPS追跡をオフに)
- ゴールドマンは少なくとも3週間は混乱が続くと予測
なぜ止まらないか?
イランの正規軍は弱体化しても、IRGC(革命防衛隊)の非対称戦争(安価な自爆ドローンや機雷)が船舶を脅かし続けている為。
世界の対応
IEA(国際エネルギー機関)が32カ国で戦略石油備蓄の放出を決定。IEA自身も「前例のないエネルギーショック」と表現しています。

米国とイスラエルによる対イラン戦争は2週目の終わりを迎えつつありますが、現時点で明確な出口は見えていません。
ホワイトハウスが引き続き勝利を強調する一方で、ゴールドマン・サックスは、ホルムズ海峡における混乱が今後3週間続くと予想しています。
この見通しは、国際エネルギー機関(IEA)が既に「前例のない世界的エネルギーショック」と表現している事態が更に深刻化する可能性を示唆しています。
ホルムズ海峡という重要な海上チョークポイントについて、UBSおよびゴールドマンサックスがデータで整理しています。
ホルムズ海峡を通過する石油・ガスタンカーの数、ペルシャ湾に出入りする船舶の数

原油タンカー・LNG・LPGすべての種類で同時にストップしており、特定の船種だけでなく業界全体が一斉に通行を止めた事が分かります。これは船会社が戦争リスクを避けて自主的に迂回・停泊している為です。
中東の港湾における原油積載量(百万バレル/日)

赤いライン(Yanbu+Fujairah)に注目
この2港はホルムズ海峡を通らなくても出荷できる数少ない港です。
Yanbu(ヤンブー)— 紅海側
サウジアラムコの東西パイプライン(Petroline)で内陸から直結ホルムズを完全にバイパスできます。
能力:最大約500万バレル/日(ただし現在はフル稼働していない)
Fujairah(フジャイラ)— オマーン湾側
ホルムズの「出口側」に位置し、技術的には海峡通過を最小化できるUAEの戦略備蓄拠点でもある
赤ラインが3月に入り一時的に上がっているのは、これらの迂回ルートへの需要が集中した為。
。しかしそれでも全体の落ち込みを補うにはまだ足りていません。
膨大な数の船舶が原油を積み込むため、ホルムズ海峡を迂回してサウジアラビア西海岸に向かっている様子👇

イランの港湾別原油積載量(百万バレル/日)

このグラフが示す事はイランの原油積み出しは、月平均(赤線)を維持しているように見える事です。自分だけは輸出(おそらく中国へ)している事が分かります。
注目ポイントは
Kharg Island(黒)ハールク島への集中です。
- イランの輸出の約90%を担う主力港がここです。
- 3月以降、他の港(Soroosh・Sirri・Lavan)がほぼ消え、ハールク島だけが残っています。

月平均(赤線)が下がっていない理由
- 戦争前に積み込んだ在庫船がまだ動いている可能性があります。
- あるいはAISオフの「ダーク船」が実態を隠して運航しています。
イランの輸出は表面上は続いているように見えるが、拠点がハールク島一点に集中・脆弱化しており、そこが攻撃されれば完全停止するリスクがあります。
後程紹介しますが、トランプが3月14日未明にハールク島を爆撃。革命防衛隊がホルムズ海峡封鎖を継続するならハールク島の原油施設を破壊すると発表しています。
ペルシャ湾における石油・天然ガスインフラのマップ

このマップから分かるのは、ほぼ全ての輸出ターミナルが「ホルムズの手前」に密集している事です。
赤で示されたホルムズ海峡は、これら全インフラの「唯一の出口」。迂回できるのは先ほど紹介したサウジとUAEの実質2本の迂回ラインだけです。世界の石油・LNGインフラの大部分が、幅わずか約50kmのホルムズ海峡一本に依存して集積している危険性が分かります。
イランによる民間の商船への攻撃(直接攻撃および未遂攻撃)数推移

3月1日戦争開始と同時に攻撃急増(1日4件)。3月4日に再び4件のピークとなり、3月8〜9日に一時的に静まりました。しかし、3月11日また4件に急増、しかもペルシャ湾内部(赤)が増加しています。3月12日も攻撃が継続。
テロ攻撃エリアが拡大しており、当初はホルムズ海峡・オマーン湾が中心でしたが、最近はUAEの西海岸・ペルシャ湾内部にも拡大しています。
これが船会社が通行を止めている直接の理由です。攻撃がいつどこで来るか予測不能な為、保険会社も船員も湾内への入域を拒否している状態です。3月11日の再急増は、停戦の兆しがない事を示しています。
3月初旬以降、湾岸地域で船舶が攻撃を受けた際の位置情報を示す地図

3月以降、攻撃・不審活動がペルシャ湾全域に広がっている事が分かります。
色別の意味
🔴 赤い船 実際に攻撃を受けた船 最多
◐ 黄色い船 不審な活動(攻撃未遂・接近等) 複数
◑ 緑の船 注意勧告レベル 少数
クウェート沖(湾の最奥部)まで赤が広がっていて、Ras Tanura(サウジの最重要輸出港)周辺にも赤がついています。
ホルムズ海峡〜フジャイラ周辺が特に酷く、オマーン湾でも攻撃をしています。
これを見れば、なぜ船会社が湾内への入域を完全拒否しているかが一目瞭然です。どこにいても攻撃される状況であり、佐世保のUSSトリポリを米軍がペルシャ湾に派遣しますが、その緊急性もこのマップが物語っています。
イラン革命防衛隊によるエネルギーインフラへの攻撃一覧

3/2 UAE・Musaffah燃料ターミナル 火災発生
3/3 オマーン・Duqmport カタールLNG生産1/5停止の翌日
3/4 サウジ・Ras Tanura製油所 アラムコ最大の国内製油所が操業停止
3/9 UAE・Fujairah輸出ターミナル 迂回拠点が損傷
3/10 UAE・Ruwais製油所 92万バレル/日の製油所が閉鎖
3/11 オマーン・Salalah港 Maersk全業務停止
3/12 サウジ・Shaybah油田(再攻撃) 100万バレル/日の油田
最も深刻なポイントは迂回ルートの拠点まで攻撃されている事です。イランは海峡封鎖だけでなく、湾岸諸国のエネルギーインフラを片っ端から攻撃しており、迂回ルートも含めて破壊しつつあります。もはや『ホルムズだけの問題』ではなく、これが「前例のないエネルギーショック」とIEAが表現した理由です。
UBSに加え、ゴールドマン・サックスが追跡しているペルシャ湾からの輸出データも、ホルムズ海峡を通る活動が限定的であることを示しています。

ホルムズ海峡の石油流通量が通常の3%まで減少していて、崩壊のスピードが異常で、僅か1週間(2月27日→3月4日)で110%→3%に急落。赤いのは石油流通量移動平均線ですが、ホルムズ海峡は事実上完全封鎖状態。通常20mb/dの石油が今や0.6mb/dしか通っておらず、97%が止まっています。
残り3%はおそらくAISをオフにした少数の「決死隊」タンカーか、軍の護衛付き特例船と思われます。(ここに数字として表れていない通過した商船も存在る可能性はあります)
ペルシャ湾からの原油供給への推定総損失は1600万バレル/日(2022年4月のロシアの原油生産への損失のピーク時の16倍)にも。

このグラフが示す事はペルシャ湾からの石油供給が、通常の70%(16mb/d)消滅した事です。
残り30%は迂回ルート(サウジYanbu+UAEのFujairah)が支えています。
左グラフ:実際に流れている量と時期
右グラフ:失われた損失量(赤いのは4日移動平均線)
スケール感を理解するためにロシアのウクライナ侵略時と比較すると・・・
2022年ロシア制裁のピーク影響 約1 mb/dでしたが、今回のペルシャ湾損失 16 mb/dで16倍です。
世界全体の石油消費量は約100 mb/d。
S&Pグローバルによると、3月1日以降、ホルムズ海峡を通過したタンカーは僅か22隻で、そのほとんどがAIS信号をオフにして運航していました。
3月1日以降にホルムズ海峡を通過した22隻の全記録

制裁対象船が堂々と通過している事が分かります。
DALIA(イラン船籍・制裁対象)→ イラン国内輸送VOY(香港)→ 中国・青島向け
CUME(偽旗・ガイアナ)→ 中国向け
DANUTA I、NAVIXON、PARIMAL → いずれも制裁対象
まともな船会社はあまり動けておらず、ホルムズ海峡を通っているのは制裁対象の中国向けダーク船か偽旗船の可能性があります。
イランがホルムズ海峡封鎖にアクセルを踏んだ事を受けて、トランプは次のカードを切りました。ハルグ島の軍事施設爆撃です。

つい先ほど、私の指示のもと、アメリカ中央軍は中東の歴史においても最大級となる極めて強力な爆撃作戦を実行し、イランの要衝であるハルグ島に存在するすべての軍事目標を完全に破壊いたしました。
我が国の兵器は、世界がこれまでに知る中で最も強力かつ高度なものです。しかしながら、一定の節度を重んじる立場から、同島の石油インフラについては破壊しないという判断をあえて下しました。
とはいえ、もしイラン、あるいはその他いかなる勢力であっても、ホルムズ海峡を通過する船舶の自由かつ安全な航行を妨げる行為に出るのであれば、私は直ちにこの判断を見直す事になるでしょう。

先ほども触れましたが、ハルグ島はイランのブシェフル州沖約35kmにある小島で、ニューヨークのセントラルパーク程度の大きさです。イランの石油輸出の約90%がここを経由し、日量約700万バレルの積み出し能力を持ちます。
イランはホルムズ海峡を封鎖するという事で世界経済を人質に取りましたが、トランプはイラン政府の収入における生命線のこの島を人質に取る事でホルムズ海峡封鎖を止めるように取引するつもりだと思われます。
ハルク島はイラン政府、イラン革命防衛隊にとってのホルムズ海峡だろうと。
JPモルガンは、もしハルク島の油田インフラが機能停止した場合、輸出能力だけでなく、イランの石油生産量(日量約330万バレル)の半分が失われるリスクがあると指摘しています。

ハールク島はペルシャ湾北部に浮かぶ全長約8kmのサンゴ礁の小島ですが、イランの原油輸出の約90%を担い、テヘランが得るエネルギー収入(年間約780億ドル)の大部分を生み出しています。トランプはこれを「イランの至宝」と呼びましたが、その通りです。
イランの石油は世界供給量の僅か3〜4%に過ぎません。しかし世界の石油輸送量の20%がホルムズ海峡を通過しています。
ハルグ島は「禁断の島」とも呼ばれています。入島にはセキュリティ・クリアランスが必要で、イラン革命防衛隊が警備にあたっています。また、対艦ミサイルと海中機雷を搭載した高速艇を運用するIRGC海軍の精鋭部隊「第112ゾルファガール水上戦闘旅団」が駐留しています。
ハルグ島は単なる石油ターミナルではありません。革命防衛隊はこの島をペルシャ湾北部における前方軍事拠点として活用しています。
その戦力には以下が含まれます。
ゾルファガール級ミサイル艇(ナスル1型対艦ミサイル搭載、射程25〜35km)・アーシュラー級高速艇(ロケットランチャーおよび機雷敷設能力を装備)・沿岸砲台・レーダー・センサーネットワーク・ドローンインフラ。

これらが破壊された可能性があります。
同時に、沖縄を母港とする日本駐留の精鋭米海兵部隊が中東へ急行しています。
米海兵隊唯一の「常時前方展開型」遠征部隊の第31海兵遠征隊(31st MEU)が乗艦しているアメリカ級強襲揚陸艦トリポリが佐世保から出発しているようです。
この部隊はホルムズ海峡での任務に完璧にマッチした部隊です。
AH-1Z ヴァイパー攻撃ヘリ(1個飛行隊=約20機)
- イランの高速攻撃艇(ボガマー)、ドローン、無人水上艇(USV)を叩くのに最適
- 小さくて速い目標を低空で追いかけて破壊できる
ヘリコプター機雷対抗措置飛行隊15(HM-15)
- ホルムズ海峡に敷設されたイランの機雷を空中から探知・除去する専門部隊
- まさに今この瞬間に必要とされている能力
ホルムズ海峡の掃海作業を守る空中警備員と、機雷を片付ける専門チームを、専用の移動基地ごと送り込んだ形で、ハルグ島攻撃でイランの攻撃艇・ドローン・ミサイルの脅威を潰し、トリポリがその安全な環境で掃海作戦を支援するという一連の作戦にマッチする部隊が送られています。