
米国からの通商書簡が引き続き発送される中、ドイツ銀行(DB)のジム・リード氏は、「4月2日が7月9日となり、更に多くの国々に対する8月1日へと延期されている」と記しています。
土曜日の早朝、EUやメキシコに対して8月1日から30%の関税を課す旨の通告がされました。
公平に見れば、1カ月前にはEUに50%の関税を警告していた為、多少は「改善」とも言えるかもしれません。
市場としては、これは大方交渉戦術であり、実際にこのような高い関税は実施されないと考えられています。
EUはこれまで慎重な対応をとっており、明日夜に発動予定だった報復措置の一時停止を延長しました。
これらは8月1日の期限に合わせられる事となります。EUも市場も、外交的解決を期待し、望んでいます。
ただしどこかの時点で、誰かの「ブラフ」が見抜かれる可能性もあるとDBのストラテジストは注意喚起しています。
現在、米国のリスク資産市場が高値圏にあり、債券市場も比較的安定している為、トランプ大統領には譲歩する圧力が少なく感じられます。
仮に8月1日に大規模な関税が発動されれば、夏季休暇で流動性が薄い市場で大きな反応が起こる可能性もあります。今後3週間の交渉が、世界中が安らかな夏休みを過ごせるかのカギを握っています。

一つ確かなのは、多くがインフレ動向次第で決まるという点です。
インフレが落ち着いていれば問題はありませんが、もしここで悪化が見られれば、FRB議長の交代などが、少なくとも当面は、双子の赤字を抱える米国にとって大きな問題となり得ます。
こうした背景から、今週は重要な週です。
というのも、明日は最新の米国CPI(消費者物価指数)、水曜日にはPPI(生産者物価指数)が発表されるからです。
他にもカナダ(同じく明日)、イギリス(水曜)、日本(金曜)のCPI発表も控えています。
米国では、小売売上高(木曜)や工業生産(同じく水曜、6月分)、7月分のミシガン大学消費者態度指数(速報値)(金曜)も発表予定です。
木曜日の新規失業保険申請件数は雇用統計調査週に該当している為、最近の改善が維持されるか注目です。中国の成長も注目で、明日は第2四半期GDPおよび6月度の各種経済指標が公表されます。また、米銀大手が明日からQ2(第2四半期)の決算発表を開始し、半導体企業のASMLやTSMCも今週中に決算を発表します。
米国主要経済指標の先行き、特にインフレ関連について深掘りします。
DBの米国担当エコノミストの予想によれば、季節調整済みガソリン価格の+0.9%上昇や堅調な食品インフレがヘッドラインCPI(+0.34%予想、前回+0.08%)を押し上げ、コアCPI(+0.32%予想、前回+0.13%)をやや上回る見込みです。
これにより、前年比伸び率はそれぞれ0.3ポイント(2.7%、3.0%)上昇、3カ月および6カ月の年率でもそれぞれ1.1ポイント上昇(2.8%)と0.3ポイント上昇(2.9%)となる見通しです。
エコノミストらは特にコア財カテゴリーにおける関税影響の兆候に注目しています。水曜のPPIも、FRBが重視するコアPCEへの波及が予想される部門の為、注目度が高いです。
CPI発表後はFRB関係者による発言が相次ぐ予定で、データに対する反応も活発になると見られます。
世界各国の注目イベントも末尾の日別カレンダーに纏めてあります。木曜・金曜にはG20財務相・中央銀行総裁会議も開催されます。
Q2決算については、JPMorgan、Wells Fargo、Citiが明日シーズンを開始します。
Bank of America、Morgan Stanley、Goldman Sachsは水曜発表予定。
Blackrock、American Express、Charles Schwabも注目の金融セクター企業。
またASML(水曜)、TSMC(木曜)といった半導体企業の決算もあり、年初来でフィラデルフィア半導体指数は15.2%の上昇となっています。
その他S&P500構成企業では、Johnson & Johnson、Netflix、General Electric、PepsiCo等も決算発表予定です。欧州ではノバルティス、ボルボ、サンドビック、サーブなどが注目企業です。
今週はS&P500時価総額の10%(金融セクターの43%)が決算を発表する見通しです。
特に銀行株については、金利動向(利下げ回避・イールドカーブのスティープ化)を受けた純金利収入(NII)ガイダンスや、融資成長、SLR改革やSCB低下後の資本還元姿勢に対するコメントに関心が集まります。
ゴールドマンによれば、来週金曜(7/18)までのS&P500想定変動率(インプライド・ムーブ)は1.39%との事。
更に「クリプト・ウィーク」関連のニュースにも注意が必要です。米下院ではデジタル資産の規制枠組みを明確にする暗号資産関連法案が審議される予定です。
以下はDB提供による日別主要イベントカレンダーです。
【7月14日(月)】データ: 中国6月貿易収支、日本5月コア機械受注・設備稼働率
中央銀行: ECBのVujcic、Cipollone発言
【7月15日(火)】データ: 米6月CPI、7月エンパイア製造業景況指数、中国Q2 GDP、6月小売売上・工業生産・住宅価格、ドイツ7月ZEW調査、ユーロ圏7月ZEW調査・5月工業生産、イタリア5月政府債務、カナダ6月CPI・中古住宅販売・5月製造業売上
中央銀行: FRBのボウマン、バー、コリンズ、バーキン発言、BOEベイリー発言
決算: JPモルガン、ウェルズ・ファーゴ、ブラックロック、シティグループ、バンクオブニューヨークメロン
【7月16日(水)】データ: 米6月PPI、工業生産・設備稼働率、7月NY連銀サービス業ビジネス活動指標、英国6月CPI・RPI・5月住宅価格指数、イタリア5月貿易収支、ユーロ圏5月貿易収支、カナダ6月住宅着工
中央銀行: FRBベージュブック、FRBのローガン、ハマック、バー、ウィリアムズ、バーキン発言
決算: ジョンソン&ジョンソン、バンク・オブ・アメリカ、ASML、モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックス、キンダー・モルガン、サンドビック、ユナイテッド航空、アルコア
【7月17日(木)】データ: 米6月小売売上高、輸入・輸出物価指数、7月フィラデルフィア連銀景況指数、NAHB住宅市場指数、5月企業在庫、ネットTICフロー、新規失業保険申請、英国5月平均週給・失業率・6月失業者数変化、日本6月貿易収支、カナダ5月国際証券取引、豪州6月雇用統計
中央銀行: FRBのクグラー、デイリー、クック、ウォラー発言
決算: TSMC、ネットフリックス、GE、ノバルティス、アボット・ラボラトリーズ、ペプシコ、ABB、インタラクティブ・ブローカーズ、エレバンス・ヘルス、ボルボ、EQT AB、エボリューション
【7月18日(金)】データ: 米7月ミシガン大学消費者信頼感指数(速報)、6月住宅着工件数・建設許可件数、日本6月全国CPI、ドイツ6月PPI、イタリア5月経常収支、ECB5月経常収支、ユーロ圏5月建設出荷
決算: アメリカン・エキスプレス、チャールズ・シュワブ、シュルンベルジェ、サーブ
<米国に絞った今週の注目トピック>
重要な経済指標発表は、火曜のCPI、小売売上高(木曜)、ミシガン大学指数(金曜)です。連邦準備制度理事会(FRB)関係者の講演も多く、水曜にはNY連銀ウィリアムズ総裁のイベントがあります。
【7月14日(月)】
注目すべき米国経済指標の発表予定はありません。
【7月15日(火)】
08:30 CPI(前月比、6月、GS+0.30%、市場予想+0.3%、前回+0.1%)、コアCPI(前月比、6月、GS+0.23%、市場予想+0.3%、前回+0.1%)、CPI(前年比、6月、GS+2.68%、市場予想+2.6%、前回+2.4%)、コアCPI(前年比、6月、GS+2.93%、市場予想+2.9%、前回+2.8%):
中古車価格(前月比▲0.5%)、新車価格横ばい、自動車保険が+0.3%と見込まれます。航空運賃は前月比+1%のリバウンドを予想しますが、この項目は上下双方向にリスクがあります。関税影響の大きい通信、家財、レジャー項目でコアインフレに+0.08%ptの押し上げ効果を見込みます。住居費もやや反発予想です(家賃+0.25%・5月は+0.21%、OER+0.27%・5月と同じ)。ヘッドラインCPIは食品(+0.25%)およびエネルギー(+1.2%)で0.30%上昇予想。
08:30 エンパイア州製造業指数(7月、市場予想-9.6、前回-16.0)
09:15 FRB副議長(監督担当)ボウマン講演
12:45 FRB理事バー講演
13:00 リッチモンド連銀バーキン総裁講演
14:45 ボストン連銀コリンズ総裁講演
19:45 ダラス連銀ローガン総裁講演
【7月16日(水)】
08:00 リッチモンド連銀バーキン総裁講演
08:30 PPI(総合、コア)、6月(GS+0.1%、市場予想+0.2%、前回+0.1%)
09:15 工業生産、設備稼働率(6月、GS横ばい・市場+0.1%)、製造業生産(GS-0.1%、市場横ばい)、設備稼働率(GS77.3%、市場77.4%、前回77.4%):電力は好調、自動車は弱めで全体横ばいを予想
09:15 クリーブランド連銀ハマック総裁講演
10:00 FRB理事バー講演
14:00 ベージュブック
17:30 NY連銀ウィリアムズ総裁講演
【7月17日(木)】
08:30 小売売上高(6月、GS横ばい、市場予想+0.1%、前回-0.9%)、除く自動車+0.2%(市場+0.3%)、除く自動車・ガソリン+0.2%(市場+0.3%)、コア売上高+0.4%(市場+0.3%、前回+0.4%):カード決済指標はまちまちも、ジューンティーンスの祝日消費で押し上げ要因。全体は自動車低調で総売上横ばい見通し。
08:30 輸入物価指数(6月、市場予想+0.3%)
08:30 新規失業保険申請件数(7/12週、GS237k、市場233k、前回227k)、継続受給者数(7/5週、市場1,965k)
08:30 フィラデルフィア連銀製造業指数(7月、GS-1.0、市場-1.0、前回-4.0)
10:00 企業在庫(5月、市場横ばい)
10:00 NAHB住宅市場指数(7月、市場33、前回32)
10:00 FRB理事クグラー講演
12:45 サンフランシスコ連銀デイリー総裁出演
13:30 FRB理事クック講演
18:30 FRB理事ウォラー講演
【7月18日(金)】
08:30 住宅着工件数(6月、GS+2.0%、市場+3.1%、前回-9.8%)、建設許可件数(6月、市場-0.5%、前回-2.0%)
10:00 ミシガン大学消費者信頼感指数速報(7月、GS61.5、市場61.4、前回60.7)、5-10年期待インフレ率(7月速報、GS3.9%、市場4.0%、前回4.0%)
出典:DB、ゴールドマン・サックス